3/100 荒木武常さん(元登山・トレッキング専門の添乗員ツアーガイド)

「自分よりも年上の方なんだな。」

こんな知識だけ持って臨んだ荒木さんとのインタビュー。どんな話になるんだろう……。ちょっぴり緊張しながら待ち合わせ場所の千歳船橋の駅前に行くと、ニット帽がよくお似合いの可愛らしいオジサマがいらっしゃいました。

場所を変えて話を伺うと、60歳で転職をして、この前退職したそう。転職して8年続けた仕事、それが「登山・トレッキング専門の添乗員」。

ろ、ろくじゅうから、登山・トレッキング専門の添乗員??

ノッケからの展開で、荒木さんの話に引き込まれていきました。
だって、60歳から体力勝負のツアーガイドですよ?
「タダモノじゃないな。」そんな言葉が私の心で響きました、山彦のように。

登れない人が来る、日本一有名な山

「プライベートでは5回。仕事では10回は登ったね」
とおっしゃるのは、日本一高い山。そう、富士山のことです。

日本一高い山は日本一人気が高い山でもあり、いろんな方が山頂を目指すんです。たとえばバッグがシャネルだったり。

荒木さんがお供したお客さんもいろんな方がいらっしゃいました。ある日、忘れもしない親子と会ったそうです。

お母さんはお子さんに、山頂からのご来光をどうしても見せたかったんでしょうね。お母さんは荒木さんにおっしゃいました。私は5合目の山小屋に泊まりますので、この子をよろしくお願い致します、と。

この子。
いくつになっても我が子は我が子。
そんな我が子は、おん年、40うん歳の淑女だったそうです。

我が子は日頃からヨガをやっていて、ロハスな生活をしていた……かどうかはわかりませんが、8合目の山小屋で仮眠をし、ご来光を目の当たりにするために、山小屋を後にしました。9合目を過ぎたところで座り込んでしまいます。あと10分も登れば頂上という場所で。

あとちょっと。その心境は大食い選手権のそれに近いのかもしれません。端からみていれば簡単そうなこと。でも、最後の一口を入れることはできない。苦悩の表情がすべてを語ってくれます。淑女もそんな表情を浮かべていたのかもしれません。

荒木さんは彼女のリュックを背負い、そして、淑女も背負いました。あと10分歩けば頂上。淑女の重みを背中で感じながら、5合目で待っている淑女の母親の言葉が何度も蘇ってきたといいます。途中、休みながら荒木さんは頂上を目指します。夜明け前の暗闇を少しづつ進む2人。神々しさすら浮かんでいたんだろうと思います。

皆さん忘れているかもしれませんが荒木さんは当時60歳オーバー。最近の流行り言葉で言えばアラ還です。アラ還がアラフォーを背負う。凄いことですよね。そして、合わせて100歳越えの2人は登頂します。そして、彼女はご来光に涙し・ま・し・た……。

かどうかは秘密です。
(私なら確実に泣いてます)

無事に下山すると荒木さんは、淑女のお母さんに何度も何度も住所を教えてほしいとせがまれたそうです。お母さんの根気にまけて教えると後日、背負うほどのビールが届いたんだとか。まるでご来光のような琥珀色の美酒。グラスに注ぐ時にどんなことを思ったんでしょうね。

まだまだ富士山のいい話を伺ったのですが、それはまた今度ということで。中学生の息子さんとお母さんがツアーに参加したときの話など、涙が出るほどの感動話です。千歳船橋でよく飲んでいるという荒木さん。仲良くなった暁には、その話を肴に盛り上がってみては?

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