HOKUO、フォーエバー

去る2月末で北欧さんのほとんどの店舗が閉店になりましたね。パン業界がかなり動いているのだなと実感しました。

とある新聞の記事では特に赤字ではなく、年間でも20億円以上の売上があったといいます。コロナ前の6割に落ち込んでいたそうです。それにしても全店閉店とは……、決断が早いなぁという印象です。

あの、ふわふわの白いパン。二つがくっついた、ふわっふわで、もふもふなパン。値段は100円しなかったと思います。それと、あの素朴だけどおいしかった「クルミぱん」。これもよく買ったなぁ。

沿線のチェーン店、それも鉄道会社の系列会社が運営するパン屋さんがなくなるのって、こたえますね。当たり前のようにあって、海外旅行から帰って来るとお茶漬けを食べたくなるように、HOKUOの青と白の看板を見るとほっとしたことを思い出します。

特に思い出深いお店は千歳船橋店ですね。

まだチトソシを紙で発行していたときのこと。よくあの前で配っていました。朝早い時間帯とか、夕方とか。自動扉が開くと「ふぁ~」と小麦の香りが漂ってきました。ああ、おいしそう。配り終わったら買って帰ろうと、配り終えたご褒美としてHOKUOさんのパンは、ボクの気持ちを奮い立たせてくれました。

いらっしゃいませ。

何度言ってもらったか覚えていません。扉から噴き出してきた小麦の香りにのけぞりながら店内に入って、まずは先ほどご紹介した「白パン」を探します。結構な頻度で売り切れでした。あの柔らかくて、薫り高い白パンが手に入らないと、ガサガサした気持ちになったことを思い出します。あの柔らかさに癒されたいのに、がさつく心。勝手なものです。

白パンがないならとクルミパンをトレイに入れたり、スイーツ系を入れたり。なんでしょうね。トレイとトングを持つと、大人になったんだなと無駄に思いますよね。どれを乗せてもいいんだ、そんなちょっとしたハイテンションになったことを思い出します。

今日は買いすぎちゃったかなと思いながら、レジに並びます。そうすると、定員さんが華麗なトング捌きでパンを袋に入れていく。流れるような手さばきで、うっとりとしてしまいました。まるでゲレンデで異性を見かけるように、トング捌きが美しいと魔が差せば「恋に落ちてしまう」ほどにカッコよかったことを思い出します。

あの、トング捌きももう見られないかと思うと、少し、いや、かなり寂しいですね。

何事もそうなのですが、失って初めてその存在の大きさに気がつくものです。HOKUOさんも今、この原稿を書きながら、思い出を掘り起こしていると、ああ、あのときもHOKUOさんのパンを食べたなとか、祖師ヶ谷大蔵のイートインでは、息子と一緒に入ったなとか、息子はあのときにあれも食べたい、これも食べたいとトレイを一杯にして、結局何個か食べきれずに持ち帰ったじゃないか、「好きなのを乗せなよ」といったときの息子のキラキラとした瞳。すっかりと忘れていたけれど、いい思い出で。最後に、そのとき。トレイに白パンを乗せたことを覚えているんです。あっ、これだけでも食べたいなって。

これさ、おいしいから一口食べなよと息子に無理やり渡して。まだ小学生にあがる前だった息子のほっぺと同じくらいやわらかいのかな?と軽くつねって、「なにすんの?」と言われたり。そんな瞬間を作ってくれたパン屋、だったんですね。

いくつかの店舗はドンクさんに引き継がれるようです。調べてみたら、千歳船橋店と祖師ヶ谷大蔵店は引き継がれるみたいですね。もしかしたら、白パンは残されるのかもしれない。そんな淡い期待を胸に、新生HOKUOさんを訪れてみようと思います。

HOKUOさん、ありがとうございました。

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