ねぇ、パパ飛んで。

千歳船橋駅前広場でのこと。企画を考えていて、ぼーっと立っていたときに親子がいたんです。お父さんは30代後半くらいかな。一緒にいるのは5歳くらいの男の子。お父さんにおねだりしています。お菓子でも買っても欲しいのかな?と聞いていると、

「ねぇ、パパ飛んでよ」

飛んで。そう来るかと思いました。「そんな飛べるわけないじゃん!」と笑いながら返して終わるのかと思ったら、このお父さんなかなかにすごかった。

じゃぁ、ほら、乗ってよ。早くしないと飛んじゃうよ!

とかがんで、背中をお子さんに向けたんです。

おお、飛ぶのか?息子ちゃんを背負って飛ぶのか、アベンジャーズみたいになるのか? もう、企画を詰めることなんてそっちのけで、ぼーとしたふりをしながら、わたくしはその親子に全集中です。

えー、とか言いながら男の子はお父さんの背中に乗りました。お父さんは立ち上がり、息子ちゃんはしっかりとお父さんに掴まっています。

「じゃー、どこに行く?」

「あんまり遠くは困るな」

「えー、でも遠くがいい」

「そう? じゃあ、どこにする?」

「えーと、アメリカ!」

おお、なかなかに遠いな。

「えー、遠いよ!2時間くらいかかっちゃう。手、痛くなっちゃうよ」

2時間でアメリカか。すごい速さじゃない?すごくない?と私はもう何の企画を詰めていたのかすら忘れるほどに会話に没頭してました。

「だって、この前はちょっとしか飛ばなかったじゃん。だから、遠くに行きたいの」

「えー、明日仕事だし。疲れちゃうからなー」

「パパ、お願い!」

「じゃ、いくか!」

いくか!の言葉が聞こえたときは振り返ってパパと私は目が合ってしまいました。

なんだかちょっとだけ、居心地が悪くて会釈するオレ。いけるなら、定員が2人なら、オレも連れて行ってほしいとすら思っている自分がいる。

「じゃ、いくよー」とパパはしゃがみます。しゃがんで、足から炎が噴射され、ぶしゅーーーーーーと飛んでいく……のかと思いきや、パパはしゃがんで飛ぶまでに、こういうのです。

「でもな、パパ、この前さ、アメリカの大統領とね、ケンカしちゃったの」

「えー、トランプと? ケンカしちゃったの? どんな?」

「この前、〇〇(息子ちゃんの名前)にあげたガチャガチャあったでしょ? あれが欲しいってトランプちゃん、いうんだもん。〇〇(息子ちゃんの名前)、あれ好きじゃん? だからね、ダメ、また今度。っていったらさ、怒っちゃったの」

「あー、あれね」

息子ちゃんは少し、ここで沈黙。

「迷うけど、上げられない。だってあれ、宝物だもの」

「だよね」

「だからさ、LINEでトランプちゃんがごめんなさいってスタンプ送ってきたらさ、アメリカ行こうよ。びゅーんってパパ飛ぶからさ」

「うん、わかった。LINE来たら教えて」

そういって、息子ちゃんはパパの背中から降りたのでした。降りちゃうんだ、「じゃー、どこでもいい!どこでもいいからパパ飛んでいって!」とかいわないんだ。そんなことにも驚きでした。たたた、と走っていく息子ちゃんを追うお父さん。そこは飛ばないんだな、そんなことを考えてしまう自分が少し汚れているような気がした、春の日の一幕でした。

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