スポットライトが灯した、彼女の未来

舞台の幕が開いた。

ひとりの少女が舞台の端に立つ。会場に響き渡る第一声。なんちゃってな学習支援系の演劇教室とは別次元の、彼女から発せられた声が私の心に染みていく。じんわりと心地よく。身体の芯まで冷え切った真冬に飲む、一杯のコーンスープのように。腹の底から湧きあがる澄み切った声に、目を閉じる自分がいた。冒頭のト書きでここまでとは。正直驚いた。

場面が変わり8人の少女が登場した。踊りと歌声、セリフに魅了され、心に浮かんだのは「違う」の一言。軸のある踊り、張りと艶のリズムある声。一瞬で、ミュージカル経験者が指導にあたっているとわかる少女たちの舞台だった。素人だった少女たちをここまで仕上げるのはスゴイと何度も思った。

世田谷で活動しているプラニューキッズはミュージカルのレッスンを通じて表現力や協調性、思いやりの心を身につけることを目的にした団体で、産声を上げたのは2年前のこと。介護施設などでの公演がいくつか予定されていたが、その多くがコロナ感染対策のため中止となってしまった。今回、2020年8月から稽古を続けている舞台を、出演者の家族へ披露する発表会を開いたのだ。

場所は祖師ヶ谷大蔵駅のとある会館の地下1階。会場にはステージはなく、フローリングの床を客席と舞台をなんとなく分けただけのもの。スポットライトもなければ、音響はパソコンに接続された簡易的なものしかない。それなのに、目は、心は舞台に釘付けで、30分の演目はあっという間に感じた。

舞台が終わった後、プラニューキッズの立ち上げから出演しているユアさんに話を伺った。

「プラニューキッズで演じるようになって、女優になりたいと思うようになりました」という彼女。歌声に感情を乗せられるようになることや思うように踊れるようになることなど、今まで見たことがない自分に出会う悦びが舞台にあるのだろう。そんなひとつひとつが未来を決めるきっかけとなる。でも、悦びだけではなく、彼女はもっと衝撃的な瞬間に出会ってしまったのだ。

それは、舞台でのこと。

「前作は舞台で公演を行いました。スポットライトを浴びて、気持ちが高揚して」と彼女。そのスポットライトは彼女だけではなく、共演者も光り輝かせた。とくに輝いていたのはその共演者の瞳。役になりきるとこんなにも変わるのだ、こんなにも美しいのだと感動したという。そして一生舞台に関わりたいと彼女は決めたのだ。

舞台は魔物がいるというけれど、彼女が見たのはたぶん天使なのだろう。その美しさに誘われて、女優へと歩み始めた彼女は何万人という人々を演技で魅了し、涙を誘う……、そんな未来はもうすぐそこに迫っているのかもしれない。彼女と話していて、そんなシーンが見えた気がした。

プラニューキッズ

http://maiko-kanai.com/plusnewkids/

閉幕後の記念撮影
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