別れは目前です。

どこから話せばいいのでしょう。あまりの出会いが鮮烈だったので、もうすぐ訪れる別れと繋がることに驚きといいますか、悲しみといいますか、心に大きなダメージを追っております。

やはり出会いから話すのがよいのでしょうね。そうします。あまりの悲しみのため、途中、支離滅裂になってしまうかもしれません。そのご無礼をあらかじめ、お許しくださいと申しておきますね。

出会いはサミットというスーパーマーケットでした。どこかのお店に企画を伝えようとしたのか、自転車で訪れたんだと思います。覚えているのは環八沿いに立つイチョウが知らぬ間に落葉していたということです。年末に見かけたときは南側だけ黄葉した葉が残り、もしかしたら黄葉しつつ年越しするのではないかと心をときめかせたことを思い出します。その、葉が、知らぬ間に落ちていた。ああ、もしかしたら強い風が吹いたのかもしれないし、もしかしたら……と思いを巡らしました。青空がまぶしくて、瞼を少し閉じたことを覚えています。

正月の雰囲気も一掃された1月中旬。年末年始の洗い物を、数多くの洗い物と格闘した食器用スポンジは夏終わりのビーチサンダルに負けないくらいに、ぺったんこになっていました。満身創痍。ぺらんぺらんです。そんな彼の後釜を探さなくてはいけないと、サミットに入ったときにふと思い出しました。

スーパーマーケットには魔物がいます。皆さんも何度も出会ったことあるでしょう。「何かを買いにスーパーマーケットを訪れたのに、その何かを手に取ることもなく、お店を後にさせてしまう」という、お茶目だけど、人生を狂わせる、あの魔物です。ポップだったり、キラキラと輝く商品だったり、商品の前でじっと買おうかやめようか悩み続けるご婦人だったり、レジ前に並ぶ魅力的な陳列棚だったりします。お店に入ると楽しくなっちゃうんです。これが一番いけませんね。買わなくてはいけない「何か」のことなど自動ドアが開いた瞬間にブワッと吹き飛びます。ブワッと、シャーと消えてなくなる。恐ろしいけれど、なぜか快感な人生のシーンです。

たぶん、そのときも何かをボクは買う予定でサミットを訪れたのです。それは確実なのですが、その「何か」を今でも思い出すことができません。思い出そうとしました。もちろん。でも思い出せないのです。今もこの原稿を書きながら思い出そうと頑張っていますが、やはり出てこない。もう思い出すことよりも、思い出せないことを楽しもうとしているフシすらありますが。

そんなわけで、入口で何かのことをぶわっと忘れて、店内へと放たれたわけです。ここは一面の花畑で、そこに迷い込んだ蜜蜂といってもいいのかもしれません。それほどにウキウキとした気持ちに包まれて、いろいろな花畑をさまよっていきました。楽しかった。食材との出会いが、その食材との出会いでどんな料理を作れるかと想像を膨らませる瞬間が。

彼女、と言っておきましょう。

彼女と出会ったのは食器洗いの生活雑貨が並ぶコーナーでした。輝いて見えた、いや実際輝いていたのでしょう。彼女と目が合ったような、気がしました。

(続く)

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