先日、小学校からのメールで登下校中の小学生が見知らぬ男に写真を撮られた、なんて情報が送られてきて、かなりピリつきました。今の世の中、インターネットで拡散されたら画像は完全に消去できないですから、ちょっと怖いですよね。でも、無事犯人も捕まって画像も消去させたそうで、ひとまず安心です。
そんな情報ばかり目にしているとついつい人間不信になりそうですが、世の中には、子ども寄り添ってくれる信頼できる人ももちろん大勢います。 この連載でも、この地域で子どもに関わる人たちにインタビューをしてきましたが、みなさん本当にステキな方たちばかり。幼児教育の黎明期から芸術教育を続ける幼稚園の先生や、家庭文庫を長年続けてこられたおばあちゃん、子どもたちに演劇の楽しさを伝える演出家まで。きっとまだまだいるはずです。「私まだインタビューされてないけど…」という方はぜひチトソシまでご連絡くださいね。
前置きが長くなってしまいましたが、今回は今までと少し系統の違う、理系のお仕事をされている方をご紹介します。
生まれも育ちも祖師谷、という生粋の祖師谷っ子で、今では3人のお子さんのパパでもある古島さん。彼の職場は目の前に海が広がり、1年を通してトータルで30日ほど,多い年で60日ほどは船の上で過ごす、海好きの人から見ればかなり羨ましい仕事場です。これまでに世界中の海を巡り、テレビの番組や夏休みの企画展の図録の監修をされたり、近くの小学校や幼稚園で子どもたちにお話をされることも。さて、そんな古島さんのご職業はなんだかわかりますか?
正解は、日本で一番大きな海洋研究機関に所属されている海洋学者さんです。海洋研究といってもいろいろな分野があって、最近人気の深海生物の研究から、地震や津波の観測や予測、海底資源開発や、技術開発など幅広い分野があります。中でも古島さんの専門は、深海の物理環境に関する研究だとか。
深海には実際に潜って調査されるのですか?
古島:「深海には1回だけ、東日本大震災の後に水深3500mくらいの海底に出来た亀裂の調査のために有人潜水調査船「しんかい6500」で潜っていますが、普段は無人探査機に環境計測機械を載せて、海底に沈めて調査することが多いです。最近は少なくなりましたが(加齢のせい?)、ダイビングをして潜ってサンゴ礁の海の調査をすることもありました。余談ですが、今使っている海の流れを計測する機械の値段は、だいたいフェラーリ1台と同じくらいします。その機械の先に高価な(中古の軽自動車と同じくらいの値段の…)センサーをつけて海に放り投げて海底まで落として自動で浮上してくるのを待つのですが、その機械が無事に海から上がってきたときが一番ホッとしますね。(笑)」
それはかなりドキドキします。機材も特殊だから高価なんですね。
研究テーマは最初から決まっていて、それに合わせて調査するのでしょうか?
「自由に研究テーマを選べるわけではありませんが、年度ごとに、どのテーマにどのくらい予算をつけるかが決められて、その範囲の中で自分の研究テーマを決めて、必要なデータを集めて解析しています。そして,その成果は,学会や論文などを通して発表しています。最近は予算が削られていて、調査に出るために他の費用を補填したりしながら研究を進めています。また、必要な道具を買うためには、お役人に筋が通る説明をしないと予算が下りないので、それに費やす時間は多いです。研究自体で辛いと思ったことはないですが、予算の確保には苦労しています。(笑)」
う~ん、予算がないのはどこの世界も同じなんですね。もちろん、公費なので無駄遣いは困りますが、研究者でも、研究費の工面で苦労されているなんてちょっと世知辛いかも。
船には何日も乗って遠洋に出かけることも多いそうですが、船酔いはしませんか?
「船酔いはもちろんします。揺れに慣れるまでにうまくやらないと死ぬ思いです。(笑)酔い止めは必要に応じて飲みますけど、揺れに慣れることが大切だと思います。揺れに慣れてしまえばそこまで辛くないです(個人差はあると思いますが…)。私の場合は、むしろ船から降りたあとの“丘揺れ”のほうが辛いです。船を降りてからずーっと揺れているような感覚で、これはほんとに気持ち悪くて、船では吐かなかったのに、船を降りてから吐いてしまうこともあります。」
丘に上がってからも揺れているような感覚が抜けないってことですね、これは辛そう!船酔いがいやで、海に出るのが嫌になったりはしないあたりがさすがです。私だったらそれだけで嫌になります。(笑)
ところで、調査するポイントまで移動している間はどう過ごされているのですか?
「調査の準備をしていたり、水質を調べたりすることもありますが、特にやることがないときもあります。沖に出てしまうとテレビもラジオも入りません(テレビはBSが入りますね…)。インターネットも沿岸部ではかろうじて入るんですけど、沖に出るとだめ。Eメールだけは、船から一斉送受信を一定時間ごとにやっているので、メールで連絡を取ることはできますが、添付ファイルは速度が遅くなるから使えないですね。でも、かえって情報が入ってこないから静かでいいですよ。船には娯楽室もあってDVDを見たり、漫画を読んだりすることはできます」
たしかに、暇があるとついスマホをチェックしすぎたり、むだにテレビを流してしまったり、いっそ全部入らなければ気にならないのに。なんて思うこともありますよね。一日中海を眺めていることが好きな人には最高の環境かもしれません。
次回は、もう少し踏みこんで、子どものころに祖師谷で遊んだスポットや、研究者の道を選んだ理由について、聞いてみたいと思います。お楽しみに。
文/kana
祖師ヶ谷大蔵在住歴5年、一女一男の母。千葉県出身。学生時代は、バンドを組んで歌ったり、映画を撮ったり、文章を書いたりして過ごし、マスコミ関係で働く。趣味はウクレレ。2014年~ウーマンエキサイトにてコラム掲載中。