鮨一喜

 千葉県銚子市で生まれ、幼い頃から魚に触れていた喜代永さん。千歳船橋にある魚料理の居酒屋で働いたのち、鮨の世界へと足を踏み入れます。4年の歳月が流れ、再び千歳船橋に戻った彼は料理人として何枚も皮を脱いでいました。彼が生み出す一貫一貫がお客様をうならせています……。

 ということを書きたいわけではないのです。喜代永さんとの話を再び続けられることの嬉しさを皆さんと共有したくて、このページを用意しました。

「人間関係も料理と同じ。
時間をかけるほどにおいしくなる。」

 これは7年ほど前、本誌のインタビューで彼が残した言葉です。今年に入り、鮨一喜オープンの知らせを聞いて、まず思い出したのがこの言葉。2100日以上の時間が経ち彼の料理はどのように変わったのか、愉しみでしょうがありませんでした。

 予約した日。わくわくしながら、カウンターに座ったのを覚えています。まずどんな鮨が出されるのだろう。旬の魚は何だったかな?そんなことを考えていると

 出されたのは「シャリ」でした。

 鮨はシャリとネタが調和を生むもの。ですが、まずはそのハーモニーの前に、シャリだけを味わっていただきたいと、彼はいいます。力を入れてつかむと崩れる、ようやく形を保つ絶妙な力加減でにぎられたシャリ。口のなかで秩序をなくしたシャリはほろりとほどけていきました。立ち上るのは酢の香りと酸味です。鋭く細く主張する酸味もあれば、舌の上でやさしく広がる酸っぱさもあります。複数の酸味が広がると思いながら咀嚼すると、米の甘味が酸味のなかから広がっていきました。まるで花が開くように。

 シャリにもしっかりとした味があること。これに気が付かせてくれました。飲み込んだ後は、もう、期待だけしか残りません。このシャリにどんなネタを合わせてくるのか、どんなマリアージュが生まれるのか。唾液は、溢れんばかりです。

 一貫目、二貫目、そして三貫目。どれもが酸味、甘味、苦味、そして旨味を複雑に絡めて楽しませてくれました。何度、目をつぶって味と向き合ったか。途中で挟まれた、江戸前鮨の小話や、素材の話などが上の空になるほどでした。

 時を重ねること。経験を積むこと。それは楽しくも辛くもあるかもしれない。本人にしか分からない時間です。そのなかで選び取ったものを、一貫の鮨に凝縮していく。

 時間と経験、そしてセンスが生み出す、食を通じての愉しみ。お店をあとにして思いました。喜代永さん。次はどのように楽しませてくれるのでしょう。近くの未来はもちろん、5年後、10年後と遠くの未来はどのようになっているのか、考えるだけで心が踊る、そんな時間でした。

鮨一喜(すしいっき)
https://www.instagram.com/sushi.ikki.setagaya/

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