にこみや三浦

おでんもそういえば「にこみ料理」でしたね

 煮込み料理っていわれて何を思い浮かべます? 
 赤ワイン煮込み? シチュー? 角煮?それとも……。

 にこみや三浦では冬になると「おでん」が出ます。おでんの文字をメニューで見かけたとき、ああ、おでんも煮込み料理だったと、一本取られた気持ちになりました。

 これがね、ワインとよく合うんですよ。トマトと赤ワイン。ロールキャベツに白ワイン。そして、牛スネ肉にロゼワイン。実によく合う。おでんには日本酒。もちろん、それだって素晴らしい。でも、ワインとの和音もいい。新しいような、昔から知っているような心地よい風が流れます。

煮込みとの出会い

 門前仲町の魚三酒場、森下の山利喜、月島の岸田屋。そんな普遍的な大衆酒場に憧れがあるという、にこみや三浦のオーナーシェフ、三浦修平さんは青森県十和田市出身。大学に進み、上京。初めての一人暮らし。そして初めてのアルバイト。最初の大手ファミレスからずっとアルバイトは飲食関係だったという彼は卒業後、総合居酒屋企業に就職しました。仕事帰りに先輩に連れられて、あるときは仲間と連れだってお酒を飲みに行きました。そして、大衆酒場の雰囲気に魅せられて、大衆酒場の要となる「煮込み」との出会いました。

 ふと、いずれは自分もこんなお店を出したいと思い始めたそうです。独立の数年前からワインの勉強を始めたのもあって、大衆酒場の煮込みを食べながら思ったんです。煮込みとワインって合うだろうなって。

祖師ヶ谷大蔵で出店

 学生時代からずっと小田急沿線に住んでいた三浦さんは、お店を始める前から何度か祖師ヶ谷大蔵に来たことがありました。「祖師谷って優しいひとが多くて、田舎者がホッとできる街だなぁって思いました」。知り合いの伝手で祖師ヶ谷大蔵にお店を開くことになり、今では料理について刺激しあうシェフ仲間も増えたそうです。

 「ボクは居酒屋一本でやってきた人間なので、和食やイタリアン、フレンチなどそのジャンルで仕事をされてきた方々をリスペクトしています。だから、ボクがイタリアンの手法やフレンチの技法で料理を作る場合はレシピを掘り起こすことから始めます。それがまずしっかりと作れるようになるまで試す。それから自分の料理へとアレンジを加えていくようにしています。
 こんな感じだろうと適当にフレンチっぽいもの、和食っぽいものを作るのは、そのジャンルを専門にお仕事されてきた方々に対して失礼だと思いますし、テイのいい創作料理を出すのはお客様にも申し訳ありません。だから、料理のルーツを大切にするようにしています。」

型破りと料理人の関係

 三浦さんはあるとき、歌舞伎役者の言葉に出会います。それは歌舞伎役者の「型」に対する考え方。型(伝統的な基本)というものを大切に取り組まないと、型なしとよばれる演技しかできない、型をしっかりと自分のものにしてから、はじめて「型破り」ができる、と。「これは料理人についてもいえることだし、大切にしなくてはいけないと思いました」と彼は型の話に触れたころを思い出します。

 ワインも同じなんです。独立する数年前からワインの勉強を始めました。独学ですし、たった数年、それも我流で勉強してもすぐに形になることもない厳しい世界です。お客様からダメ出しをいただくこともあり、ソムリエ資格を取りました。そうしたら世界が変わったそうです。

 ワインはお客様にとって、とても分かりづらい世界だと分かったそうです。味、産地、ヴィンテージなど、それらを知ることでおいしいワインに出会えるかといえば必ずしもそうではない。もっと気軽に楽しんで欲しい。そのために、分かりやすくワインというものを伝える役割を担っていかなくてはと思うようになったそうです。型をもって、型を崩していくというか、基礎を知っているからこそ、どのように伝えればいいのかを考え始めたといいます。スタートラインにやっと着いたというか。

スタッフさんもリスペクトすべき人たち

 三浦さんと話していると、「スタッフさんが」「スタッフさんも」という言葉が出てきます。ほかのお店では「スタッフ」「メンバー」という言葉が一般的ですが、「スタッフさん」という言葉はあまり聞きません。もしかしてと思い、伺ってみるとやはりそうでした。

 「彼らもいろいろなバックグラウンド・ルーツを持っている、リスペクトすべき人たちです。一緒にこのお店を作っていく大切なチームの一員なので、そのように呼んでいるのかもしれません。」だから、と三浦さんは続けます。「まだ形になるかは分かりませんが、チームでこのお店、この場所に価値を見出したいと思っています。ボクがいなくても心地いい場所になってほしいので、なるべくボクが前面に出ることは避けるようにしています。」

 煮込めば煮込むほどに味わい深くなり、具材同士が絡み合っておいしさは深まっていく。たしかにそんな煮込み料理もあるかもしれません。でも、三浦さんの煮込みは違っているんだなと、写真撮影をしていて思いました。

 具材ひとつひとつがしっかりとエッジがあって、個性が見えるんです。具材がひとつひとつ凛としている、ひとつひとつがしっかりと自分の力で立っているといった方が分かりやすいかもしれません。そこには慣れ合いなどがない、スタッフさんとの関係性であり、調理法へのリスペクトなど、型があり、型を外していく三浦さんのスタイルが見えるような気がしました。

 「いいものがたくさんあるんです」という地元、青森県十和田市。いずれは自分がいなくても運営できるような、そんな場所を十和田市にも作りたいと話してくれました。三浦さんが生み出す、さまざまな煮込み料理。どんな煮込みへと変わっていくのか、どんな場所を作っていくのか楽しみでしょうがありません。

にこみや三浦
https://www.instagram.com/nikomiyamiura/

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