15/100 兼田さん・超若手の女性殺陣師、原動力は「なめられたくない」。もうその心意気からして殺陣師なんだなと感動(中)

こんにちは。梅が咲き始めましたね。河津桜も咲いて春の訪れを感じます。花粉症は大変だと思いますが、一日一日を大切に、残り少なくなった冬を味わっていこうと思います(迫田は夏よりも冬が好きなのです、あの暑くて、汗をかく日々がまた近づいているかと思うと少々憂鬱でございます)

前回、殺陣師・兼田さんのお話では「ちやほやされているときに、未来を見据えて『本物にならなくてはいけない!』と本腰を入れて、この世界へと足を踏み入れてきたというお話をご紹介させていただきました。今回の中編では、殺陣とは、芸能界の先輩後輩とは……、というお話をご紹介いたします。ではでははじまり、はじまり!


― 頭のなかは数学的なんですか? 考え方というか。殺陣と通じるのかもしれませんが、動きがちょっとした数式のような。イメージですけど、こっちに動いて、こっちで落とすみたいな。そうした数式みたいに動くのが「しっくり」くるような。色もこことこことここを合わせていく。韻を踏むみたいなのが落ち着くというか。

 それは落ち着くかもしれないですね。数式的な女、じゃないですけれど。

― 殺陣をされているときに、すごく情熱的に動くという感覚なのか、数学的に「置いていって」落ち着かせたい方なのか、どちらだと思いますか?

 どっちもですね。殺陣師というのは台本とか脚本とか役者さんありきなので、そのたとえば脚本を読んで「なんでこの人は殺したいんだろう」とか、憎しみなのか悲しみなのか、守りたいのか、それとも普通に快楽殺人なのかによって変わります。

 例えば刀ってまっすぐ振り下ろすじゃないですか。この振り方ひとつでも何百通りとあるんですよ。それを作るのが私たちの仕事なので、まずは台本を読み込みます。台本を読み込んで役者さんを見て、「あっ、この役者さんなら、クールなキャラクターで芝居するかな?」とか、この人なら「てめぇー!」って熱くなる人なのか、というのを見て考えてアクションつけてみて、監督とすり合わをするんです。

 実際にやってもらって、「あっ、(これはちょっと違うな)」となったときに、次は感情的にやってみる。たとえば誰かを守る!となったときに何かを守りながら動いたりするのと、この人はほんとうは殺したくないけど、殺さなくてはいけないという状況になったときに「おら!」と振りかぶったりはしないじゃないですか。ちょっとビビりながら、抵抗ありながら、でも守らなきゃ、でも殺したくない、でも行かなきゃとなると、ちょっと怯えが出ると思うのですが、そんな感じに心の動きを考えながら作っていくんです。ここまでは情熱、感情的な部分ですね。

 それで、そこから先がもっと感情的になりすぎてしまうとアクションはグチャグチャになってしまいます。「うぁーーーー!!」ってなっちゃうじゃないですか。気が狂っているひとの役柄だったらいいんですけど、それでは見世物ではないので、ここからは計算していきます。どのくらいの尺だとか。この尺内にこうやって、1回相手に殴られたのをきっかけに、また怒りがこみあげてきて、うぁー!ってなるとか……。タイミングで計算したり。

 殺陣の段取りではありませんが、役者さんに気持ちよく芝居をしてもらうことを大切にしていますね。1回、私がやってみて、この尺はもう少し短い方が見やすいですねとか、今の振り方ですと危ないですねとか。ほかの役者さんに当たりそうなのでとかの助言をしていきますね。

― 兼田さんは現在、振り付けをすることが多いのですか? ご自身が演じるということが多いのですか?

 どっちも、とんとんという感じです。どっちも楽しいんですよ。やっていて。仕事としては振り付け、殺陣師という仕事の方が今は多いのですが……。

- 振り付けするひとも、演じる人も両方、殺陣師というのですか?

 振り付けを付けるひとを指しますね。私はお芝居もやるので、ワタシが出演しながら、殺陣師を務めることが多いですね。

― 殺陣師に専念された場合、その方たちというのは今までのように自分の身体を鍛錬することは減っていくものなのですか? 殺陣師の仕事が増えていくと基礎的なトレーニングは減っていくものなのですか。ダンスの振付師はダンサーほど踊れる必要はないと考える方もいらっしゃいますよね。殺陣師の場合は演者でなくなったとしても基礎的なトレーニングを続けているものなのですか。

 いや、そうですね。自分自身、まだ20代なんですけど、(基礎的なトレーニングがもっと必要になるのは)30、40、50、60からですよね。私の身体が衰退していくと思うんですけど、やっぱり若いひとに負けたくないので、どんどん稽古を積みますし。だから、お稽古をもちろんしていますし、演者としてもやっていきたいので、ほんとうに身体づくり、ですかね。


― 殺陣を付けるということは教えるということなのですか?

 「教える」ということですね。教えるのに加えて、自分自身も勉強になります。ということなので、勉強しなくていいということはないんです。80代、70代の方がまだ現役でいらっしゃるので、言い方が難しいですけど、40代、50代の先輩方が若手といわれて一生懸命殺陣を勉強されているので、ワタシなんか20代ですし、まだ全然です。もっともっとやらなきゃ、もっと勉強しなきゃというのと、時代劇をたくさん見なくてはいけないと思っています。やっぱり知識が必要ですね。

― 勉強というのは殺陣の勉強もあるんでしょうけど、背景の文化的なものも勉強されるんですか?

 そうですね。とくに自分が担当になる作品はもうめちゃくちゃ観ますね。忠臣蔵ってありますよね。でもあまりフューチャーされないんですよ。どちらかといえば新選組が多いと思うんですけど。忠臣蔵の登場人物もよくわからない状態で担当になったときは全部ドラマから映画、ウィキペディア、ウエブページ全部見て、人物像とか、どんな人間なのかというのを頭に叩き込んでいきますね。

― たとえば図書館にまず行くなど、新しい作品を調べるときのルーチンってありますか?

 最初はお勉強とかではなくて、お客さんとして楽しみます。一回客観視して、誰がかっこいいなとか、この登場人物の感情が泣けるなとか、なんでもいいですけど。一回、玄人目で、この刀がどうで、この関係性がこうなっていて、いや立ち回りがこうかと考えちゃうともう2度と客観視できなくなるので、最初は真っ白な気持ちで観ますね。純粋に楽しみます。じゃ、あのとき楽しいなと思ったシーンはどれだろうと思ったときに、また玄人目線に戻って、また同じシーンを見て、ああ、ここの関係性をこうしていこうと改めて作っていきますね。

- 殺陣と剣道は通じるものがあるんですか?

 難しいなぁ。

― すごく上下関係がありますよね。

 あー、確かに。そうですよね。

― それと芸能界の上下関係というのはなんというか、(剣道と)重なるものがあるのかなと思いました。

 ちょっと違うかもしれません。難しいものがありますね。ワタシ自身も難しいのが、例えば年齢が上だから先輩ではないんですよ。先にこの世界に入った人、または芸歴が長い人とか。ワタシが14歳から始めているので、どうしても同級生、タメとかだとワタシの方が先輩になったりします。逆にいうと40代の方でも、ワタシの方が先輩になることもあるんですよ。となったときに、ワタシは逆の立場になったときに、40になったときに、20ペーペーの小娘に指示されるのはイヤですよね。それも偉そうにされたらイラっとするので、ワタシは絶対に謙虚な姿勢で「あの、すいませんけども」みたいな「この時間のこのお稽古場なので、すいませんがご協力お願いいたします」みたいなカタチでしっかりと交流を育みますね。

― その芸歴というのはお互い最初の挨拶で探り合いになるわけじゃないですか。どのように探るんですか?

 そうですね(爆笑)。だからもう、(ワタシは)全員、年上と思っています。「おはようございます、兼田玲菜でございます」とあいさつして。でも、相手はきっと名前とか検索するとか、ウィキペディアとかを見られているから、「あっ、この人は先輩なんだな、若いけど」となるか、「ああ、小娘か、はぁーん」みたいな。どっちかですよ。やっぱりこの2択ですね。

 でも、ワタシも探りますけど、検索してみたりして、どうゆうことをやられているのかなと……

― 検索されるんですね。話をされるわけではなく。

 ちょっと話ながら、「ほぅ、なるほどね」と。このひと最近始めたなとか(笑)、そんな探りながら聞くんです。それで(ワタシの)ちょっと態度が変わったりはしないですね。

― 「先輩なんですよね」というように赤裸々に言葉をかけることはないんですか?

 うーん、もうちょっと仲良くなって、飲みの席とまでは言いませんけど。嫌みとかではなくて、「おいくつぐらいからやってらっしゃるんですか?」とさりげなく(笑)。「はー、そうなんですね、5年前からー」(……下か)とか。年齢は上なので敬語は使いますし、そうですね、難しいですよね。

― 兼田さんは「和もの」という一本の柱を作ろうとしているということですよね。

 そうですね。でも、どっちも。結局20代の小娘が和だーとか、日本の文化だとほざいても、たぶん先輩方は腐るほどいるので、エンタメ的な和が好きで、今着ている服は和服でもなんでもなくて、普通のワンピースなんです。なんか、こうゆうお着物の形、デザインをしながらみたいな。

- これは大正のころの和服をリメイクしたとかではないんですか?

 いいえ、現代的な生地ですし、リメイクとかではないです。和洋折衷ではないんですけど、日本舞踊の方とか、お着物に合わせて帽子とか、レースとかを合わせたりしないので、そうゆうのを合わせてコーディネートしたいなというのが結構好きで。海外とかでも、ヨーロッパでファッションショーの演出もやってきたんですけど、気軽に和服を私服として着ていただけたらなと思っています。なので、ワタシもヤンキーアクションに特化しているかというとちょっと違うんですけど、やってといわれたら全然やるんですけど、いちよ和もの、和をやっている人だな、というイメージが世間的には大きいのかなと思います。

― 和のものをやっているけれど、ファッションなどはそれをちょっと崩そうとしているわけですよね。

 古典的な和は活かせないので。

― 先ほど少しおっしゃっていた「カジュアル」な和をやりたいし、そっちでポジションを作っていきたいんですよね。殺陣をやってらっしゃるときに、一番気持ちいいのはどんな瞬間なんですか?

 自分が本番を迎えて、刀を切っているときは気持ちがいいです。たとえば「復讐してやるぅ」っていう芝居があって、今まで練習してきた殺陣をうぁーとやったときに、練習とは違って感情が入っているじゃないですか、それまでの最初のエピソードとか。なぜ、復讐したいのかとか、こいつをなぜ憎んでいるのかとか。全部思い描いたうえで、最後に殺すので、やっぱり気持ちは入りますし。殺陣を振りながら、涙を流していたときは「あっ、ちゃんと感情が湧いているな」という自覚がありましたね。

― 普通の、普通というわけではありませんが、普通の演じるところ(殺陣がない)があって、その先に殺陣が出てくるわけじゃないですか。その普通のところは殺陣師から見るとどうゆう場所になるわけですか。どこも合わせて演出をかけるんですか? また別の演出家が手がけることもあるんですよね。

 そこは結構話し合いですね。演出家によってはたとえば「アクションはわかんないから、ここのシーン丸投げ」って人もいれば、「手(振り付け)だけ付けてくれればいいから」あとは全部オレが演出するからという人もいるし、一緒にお仕事相談させてもらってもいいですか?という人もいます。ほんとにいろんなパターンがあります。

 今回のこの現場は(お稽古前にインタビューさせていただきました)、ぼくは殺陣がわからないのでお任せします、出来上がったら見させてもらって意見させてください、という感じなので、自由にアクションをやらせていただいたりとか。結構丸投げの人が多いイメージですね。

― 全然芝居に関心がない殺陣師の方が入ると大変なんじゃないですか?

 ある意味、台本として、そのひとの動きをベースに役者が変えて行ったりとか、たとえば「殺してやる!」というときに、スーって(きれいに、まっすぐに)構えないじゃないですか。冷静に。実際はガッと力が入ると思うんです。だから私は最初から「ガッとしといてください」と演者さんに言うんですけど。もしもやり慣れてる俳優さんだったら、感情が高まっているから勝手に「ガッ」と力が入る殺陣になったりとか。どっちを先行するかなんですけど。でもほんとうにわかんない人だと、「てめぇ、殺してやる!」っていいながら、スンと構えるということになっちゃいます。なので、そこは演出家さんとか監督さんが直してくれると思うんですけどね。ワタシは指示しちゃいますね。「気、狂っててください、狂っててください、感情熱くなっててください、いくよ、いくよ! はい!」みたいな感じで(笑)。

― 演劇の方が好きってことですよね。

 どっちも好きなんですけど。

― もともとは演劇で、そのあとに殺陣に入っていったということですものね。

 そうですね。

― 最初はどんな舞台が好きだったんですか?

 ハラハラドキドキするのが凄く好きで。のんびり平和な日常的な舞台よりは、サスペンスとか(が好きですね)。あと、ワタシけっこうアクションつけるとき、「人間味」って言葉をものすごく使うんですけど、お化けの怖さより、人間の狂気的コワさとかの方が、すごく好きなんです。舞台とか映画とか。逆に人間って一番怖いよなって。サイコパスとか。お化けの呪いとかよりは、男の浮気をきっかけに殺す女たちの方があるじゃないですか、日常に。

― 日常でそういう経験はありますか?

 ありますよ(笑)。

― それいえる範囲でひとつ、どうですか?

 えー、あんまよろしくないエピソードしかない。。。今必死に搾り出そうとしてますけど。そうですねー。やっぱりそっちの人間味の方がワタシは好きで、殺陣とかアクションとかも、刃物を持っているって、わりと非日常ですけど、彼にとっては日常なのか、それとも初めて刀を持ったのかにもよるじゃないですか。気持ちが。なので、さっきも言った通り、人間味がないと、気が狂っているヤツがスン(きれいに構える)ことはやらなじゃないですか。たとえば、薬物でめっちゃ、「うらぁー」っていうよりは、おとなしく狂っているやつだとしても、「スン」とはしないじゃないですか。

ー その感覚もたぶん同じで、色を揃えるとか。そうゆう流れに沿ってないとすっごい違和感を覚える感覚をお持ちなんだなと思いましたね。

 そうなんですかね。ありがとうございます。


今回はここまでです。次回は若手で、女性で、殺陣師だからこそ感じるコトと、若手で、女性で、殺陣師だからこそ踏ん張れるコトについて兼田さんが感じていることをご紹介いたします。お楽しみに♪

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