魚店 きなり

「油絵をやりたくて、高校を卒業したらデザイン専門学校に進んだんですよ。でも、小学校・中学校で絵がうまい中村クンだけではなかなか通用しない世界だと痛感して、2カ月で『この世界に進んだのは間違いだった』と気が付きました(笑)。親の手前、卒業までデザインの勉強は続けたんですけどね。」と話すのは店主の中村さん。

 学生時代のアルバイトがきっかけでこの世界に入った中村さんは修行を経て、この店を2005年にオープンしました。シンプルに魚のおいしさを味わってほしいという気持ちと、気ままに創作料理を生み出してお客さんに楽しんでほしいという気持ちを込めて「きなり」と名前を付けました。

 「デザインの勉強は今に活かされていると思います。一度見た料理を頭にストックしておくこともそうです。そして、目にするもの、耳にするもの、触れるもの、味わうもの、そのすべてにヒントが隠されているのではないかと模索する行為もそうです。そんなデザインの勉強方法を身に着けたことは大きいですね。レイアウトを考えたり、見せ方の方向性を考えるという試行錯誤を日頃から行うことで、作品を生み出す下地というか、いいものを作る種になるんじゃないかと思っています。それは料理にも通じるものがあると思うんですよね。お客さんの目を引くにはどうしたらいいのかと電車の中刷りを見て考えたり。いろんなところにヒントは潜んでいるんだと思います。」

 ショップカードに書かれている魚介類のイラストや、メニューのレイアウトなど。店内には中村さんが手がけるデザインセンスの高いものがちりばめられています。それらにデザインを学んだという足跡が残されているのかもしれません。でも、お話を伺っていくと、デザインを学んだということはあくまでも表面的なことでしかないのかも?と思いました。

 例えば、料理をお皿に盛り付ける時の「余白」。ここに刺身を盛り付けて、薬味をここに置く。わざと残す皿の白地。それが気持ちいい空間なのか、なにか座りが悪いと感じるのか。いわば「直感」が答えを出すその世界は、もしかしたらデザインの勉強を志すずっと前、絵画が好きだった小学生のころから身に着けていたものかもしれないですよね。

 中村さんの直感が生み出す「きなり」な世界。料理だけじゃありませんのでご注意くださいね。

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